弁当箱の復活

〜 ThinkPad 365X の蘇生術〜


起動しない物

 それは一本の電話から始まりました。電話の要件は『パソコンが起動しなくなった』というもので、使用中に突然動作を停止し、以降電源を入れても、Windows が起動しない、というものでした。状況を確認するも、半年近く使用せず、知り合いにあげようと起動確認を行っている最中に現象が発生した、ということでした。

 話はわかりましたが、はっきりとした現状を確認しないことには、対応のしようがないため、とりあえずは現物を見てみることにしました。たまたま、この知り合いが出張でこちらに来るというので、持参してもらうこととしました。

 電源を投入してみると、聞き覚えのある嫌な音がするではありませんか!PC 関係では、もっとも聞きたくない、HDD クラッシュの音が聞こえてきていたのです。音から判断すると、HDD の磁気ディスクの回転が安定せず、回しはじめるとすぐ止まり、再度その動作を繰り返す、という状態となっているようでした。この音は、いつ聞いても嫌なもので、歯科治療時のドリルの音、と表現すると、どれだけ嫌な音か想像がつくと思います。

 私『これ HDD が逝ってるようですね。』

 A『えっ、なんで壊れたの?』

 私『原因はわかりません。HDD は突然死をすることがあり、この状態になってしまうと、中のデータはほぼ諦めることになります。』

 A『ええ〜〜〜〜〜〜〜(O_O) なんとかならんの?』

 私『PC としての機能を取り戻すことはできます』

 A『????』

 私『HDD を交換すれば、PC として使用できる状態にすることはできます。ただし、中のデータについては、どうにもなりません。業者に頼めば、復旧できる可能性がありますが、1MB あたり100万円と聞いています。』

 A『それは無理だ......やっぱり駄目か......』

 この手の相談は良く寄せられますが、残念ながら回らなくなった HDD を戻す技術は、私にはありませんでした。仮にそんな技術を持っていたら、これまで何度も泣いているはずはないでしょう。壊れてしまった HDD は、こぼしたミルクが如く、元には戻らないのです。

ドナーの確保

 A『この壊れたパソコン、会社の粗大ゴミに混ぜて出せないかな?』

 私『ちょっと問題があると思いますよ。よければ、私が処分しておきますが?』

 A『でも、そうすると中のデータ読むだろう?』

 私『そんな技術があったら、何台も HDD 壊して泣いたりしませんよ。』

 A『なら、お願いするわ』

てなことで、ThinkPad365X が我が家に来ることになりました。なぜそこまで固執したかというと、この ThinkPad は、Auction で私が競り落としたものだったからでした。故障原因である HDD さえ交換すれば、用途を間違えなければ十分に役立てるため、粗大ゴミとして廃棄されるのは、あまりにもかわいそうに感じたためです。

 さて、HDD を交換するためには、交換先となる HDD が必要になります。しかしここで問題がありました。すでに、市場にある 2.5 インチ HDD の最低容量は、20GB 以上となっており、8GB の壁のおそれのある ThinkPad 365X に載せることは、かなりためらわれるものでした。DiskManager などを使うことで、over 8GB も使用可能になることは考えられましたが、ThinkPad 560FJE のように、対応していない HDD に交換することで、起動不能に陥る可能性は否定できず、躊躇していました。

 他の部品であればいざしらず、HDD は駆動部品であるため、使用時間に比例して故障の確率が増加します。従って可能な限り新品を使うことが望ましいといえます。しかし、いくらの望ましいとはいっても、手に張らない代物は、どうにかなるものではありません。残る手段は中古の HDD を使うことしかありません。

 HDD という部品は不思議なもので、使用を始めて一週間で壊れるものがある一方で、6年以上も平気で稼働しているものがあったりと、個体差が非常に強い製品といえます。50km を搬送されてくるときには問題なくても、500m の未舗装道でクラッシュ(もちろん、動作停止状態です)するなど、わが身でもその理不尽さは体験しているところです。

 なじみの中古屋に電話したところ、運良く、8GB と 6GB のものがありました。私は安全性を考え、6GB のものを選択しました。容量的には 4GB で間に合うので、それ以上の用途は余ってしまうこと、そして導入予定の OS が Linux であり、標準の方法で扱える容量が必要なこと、ThinkPad 560FJE で 6GB の HDD が使用できている実績があること、などから、この選択となりました。

365X の復活

 ThinkPad 365X は弁当箱スタイルと呼ばれる形状で、キーボードを跳ね上げると、そこに HDD や FDD 、バッテリなどが鎮座しています。すでに ThinkPad 360C や ThinkPad 75x で HDD 交換を行っていることもあり、さほど問題はないだろうと、高をくくって作業を始めました。

 左右のラッチを手前に引くと、キーボードパネルが開きました。しかし、その内部構成は、これまで扱ってきた ThinkPad と全くことなるものでした。これまでの弁当箱スタイルの ThinkPad はすべて、左側から FDD、バッテリ、HDD の順に並んでおり、バッテリが搭載されていたはずの空間はまん中になっていました。しかし開いた中の空間では、右側が開いており、見えるところに HDD らしきものがないのです。これは相当あせりました。

 落ち着いて良く見直したところ、ThinkPad 365X では、左側から FDD 、 HDD 、バッテリと配置されるようになっていて、HDD 自体を支えるステーが追加されていました。しかし、ここで私はさらに驚かされました。なんとこのステーの固定は、粘着テープ一つであり、フレーム的な支えはキーボードパネルによって得られていたのです。

 以前 ThinkPad 760EL 用の CD-ROM ドライブをばらしていたとき、CD-ROM ドライブそのものは 12.5mm 厚なのですが、ドライブベイが 17mm であったため、ゲタをはかせていたことがありました。このゲタの固定も、今回同様に粘着テープによるもののみであり、相当に驚かされました。通常は、ネジか差し込みラッチなどを使うと思われるところで、大胆にも粘着テープ一つで固定してしまうとは、天下の IBM もやることがすごいですね。

 HDD を載せ変えてしまえば、後は OS のインストールを行うだけです。ただし、ThinkPad では、通常は BIOS 設定で行うようなものを、専用ユーティリティで行う必要があるため、Windows を導入しておく必要があります。MS-DOS 部分だけでまずいのは、ユーティリティのセットアップが Windows 用のインストーラしか用意されていないため、MS-DOS からは導入ができないのです。

 Windows の導入は非常に簡単です。CD-ROM ドライブを扱える起動ディスクを作り、CD-ROM 上のマスターファイルを HDD にコピーしてインストールを行うだけです。以前作成しておいた MSBATCH.INF を使うことで、半自動でインストールを進めることができますので、実際のところ、HDD にコピーが終わり、setup を起動させたところで、自動進行を確認した後、私は寝ていました。翌日はプロダクト ID の入力状態となっていましたので、ID を入力して、あっさりと作業は終了しました。

 実は、この後 Linux をインストールするわけですが、一つの問題が生じていました。これまで使用してきた CD-ROM ドライブ(KXL-820AN) が故障してしまい、使用不可となっていることです。今回の OS インストールに使用している NOVAC DVD Station でのインストールは行ったことがなく、単純に認識されるのかどうか、不安が残ります。このためまだ作業は行っていません。

TP365X の使い方

 さて、Clasic Pentium 搭載 PC の使い方はどのような物になるでしょうか?Windows 98 クラスであれば、なんとか使えるようにも感じますが、昨今のアプリケーションの肥大化を考慮すると、72MB のメモリは決して十分とはいえません。しかも、液晶が小さいため、目へ与える負担も大きく、使い用途が無いように感じられてしまうでしょう

 PC を使うのは人ばかりとは限りません。他の PC に機能を提供する PC という使い方も、世の中にはあります。このような用途では、Windows のような GUI はほとんど不要で、設定用の CUI 程度があれば十分の場合がほとんどです。となると、GUI ばりばりな Windows は、このような用途に不向きといえます。そこで、Linux の出番となるのです。

 Linux の最大のメリットは、必要に応じた選択ができる、ということです。Window System を必要とする場合は X Window System を導入することで、GUI を付加できますし、その Look&Feel については、Window Manager に一存されているため、Window Manager を変更することで、いくらでも変化させることができます。一方では、GNOME や KDE のような、統合環境シェル(と呼んでよいのでしょうか?)も普及しつつあり、Windows に勝るとも劣らない GUI 環境が提供されつつあります。

 もし、Windows が GUI なしで、CMD.EXE をシェルとして起動するバージョンがあったとしたら、おそらく、一定量は普及したでしょう。しかし、Window がない Windows では、骨のない傘になってしまい、名に偽りあり、となってしまうでしょう。ともすれば、GUI が本来的に不要な用途まで GUI を搭載させていることで、余計に混乱を引き起こしている嫌いを感じるのは、私だけではないと思います。

 ちょっと脱線してしまいますが、Linux を選択することで、棄てるしかなかった PC にも、新しい用途が生まれる場合があるのです。私の友人がこんなことを言っていました。

『金を使える人間は金を使え、金が使えないなら知恵を使え、知恵もなければ諦めろ』

 ともすると、かなりきついことのように感じられますが、決してそうではありません。お金で解決できるのであれば金を使えば良いのです。お金が無理なら、知恵を使えば良いのです。どちらもない、というのは、個人のわがままでしかないのです。自分で努力をしたくない、金も出したくない、などという要求に、いつでも手放しで受け入れられる人は、そうそういないと思います。

 よく、オンラインソフトは使いにくい、という意見を耳にすることがあります。たしかに、ドキュメントの整備が進んでいないものも少なくありません。しかし、本来は作者本人が必要だと感じて作成したツールを公開しているだけに過ぎないものであり、使いにくいと感じた部分を作者本人に投げかねなければ、改善されることはないわけです。この時、どうして使いにくいのか、ということをきちんと相手に伝えられれば、そのツールは一歩改善されるかもしれないのです。ユーザーの書いた汗は、作者に必ず届きます。届かない場合も、残念ながらまれにあります。

 ということで、現在では見向きもされない PC でも、Linux によって、十分な機能を提供するネットワークデバイスとなりうるのです。以前は、設定がわかりにくいと言われていた Linux も、現在では webmin に代表される、Web ベースなインターフェイスも搭載されてきており、以前ほどとっつきにくいものでもなくなってきています。ちょっとの慣れは必要ですが、慣れてしまうと、直接修正した方が簡単なこともあります。

 現在のところ、ThinkPad 365X には ISDN ダイアルアップルータの用途を検討していますが、ADSL 用ブロードバンドルータとして使用することも検討しています。意外に思われるかもしれませんが、実効速度が 3Mbps 程度であれば、Clasic Pentium でも十分過ぎるルーティング性能を有していますので、十分使い物になります。上がどこまで出るかわかりませんが、8Mbps 程度までであれば、このクラスの PC で十分な性能といえます。中古 PC の活用法としてはお勧めしません(ルータの値段が圧倒的に安価なので、作るほどの意味はありません)が、一つの使いみちとして、夏休みの自由研究としていかがですか(笑)。


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